久しぶりに会ったエリザベスは、とても元気そうでした。子供たちも大きくなって、すくすくと育っています。そして、最近引っ越してきたばかりのタウンハウスのゴージャスな事といったらありませんでした。6階建てのビルの3フロアを住居にしていました。しかも、その中に執事の夫婦も住まわせているのです。 ジョージ・ワシントンの肖像画が掛かり、明時代の大きなキャビネットが置かれた広いサロンに、夫と可愛い子供たちと一緒にくつろぐ彼女の美しい横顔は、幸福感で輝いていました。

ニューヨークのゴージャスなタウンハウス
しばらくして、その日が私の誕生日だったこともあり、ミッドタウンのレストランで食事をすることになりました。そこはNYの中でも予約の取りにくい超高級店でしたが、エリザベスのおかげでベストポジションのテーブルに着くことができました。 夫のスローン氏が、「やはりキャビアを頂きましょう。それに、この店に来たからには、舌平目のムニエルは欠かせませんよ。」などとオーダーをしていると、隣のテーブルにもゲストたちがやってきました。何気なくその顔ぶれを見て、私は驚きました。ヘンリー・キッシンジャー、女性キャスターの草分けでダイアナ妃の友人でもあったバーバラ・ウォルターズ、そして私の敬愛するベルニエ女史御用達のファッション・デザイナーであるオスカー・デ・ラ・レンタの面々だったのです。何とゴージャスな夜!

ジョージ・ワシントンの肖像画
しかし、その晩餐会のメインは彼らでも私でもありませんでした。その夜の主役は、私たちのテーブルにエリーコが招待した、ミセスW(ウォルシュ)でした。 エリザベスが独身時代にも一度紹介してくれたミセスWは、久しぶりにお目にかかった私に、「お元気でいらした?」と微笑み、そっと右手の甲を差し出しました。握手ではありません。クイーンやプリンセスがする仕草です。その何と自然な事。私は身をかがめ、彼女の手にキスせざるを得ませんでした。ミセスWのファッションにも思わず息を飲みました。素敵なパンツルックと頭のターバンは揃いの布地でした。身に付けた大きく輝く天然石のジュエリーは、彼女の財力と人生の歴史、それにこの国のエリート・クラスに所属する人であることを物語っていました。それもごく当たり前に。

ミッドタウンの超高級なレストラン
エリザベスがぼやいていました。「私たちだけのときは、この店の従業員はツッケンドンなのに、ミセスWが一緒だと、扱いがまるきり違うのよ。」さもありなんと思いました。それ程のオーラなのです。
彼女は今年で88歳です。そしてその聡明なことは、ただただ驚くばかりです。スローン氏がちょっと席を外したすきに、エリザベスが私に、「タイジ、今日はごめんなさい。昨夜ベイビーが泣いて寝つけなかったものだから、主人の機嫌が今一つで無愛想なのよ。許してね。」と耳打ちしました。すると、私が返答する前にミセスWが、「あなたの旦那に、子供の事で機嫌が悪くなる資格なんか何にもないのよ。子供を作る時は、十分楽しんだのだから。」私とエリザベスは一瞬顔を見合わせ、直後に席に戻った旦那様に悟られないように、笑いを噛み殺すのに二人とも必死でした。

女性キャスターの草分け バーバラ・ウォルターズ
ミセスWのお喋りを聞けば聞くほど、私はこの老婦人に魅了されていきました。「ちょっとメキシコに住んでいた時に、うちのメイドに食事をつくらせるために、パリのコルドン・ブルーにやっていたのよ。でも考えてみれば、メキシコでフレンチだなんて、ナンセンスだったわね!」だの、「主人はロシア語もルーマニア語も話せるのだけど、それはロシア人とルーマニア人の愛人がいたお陰なのよ。」とか、天衣無縫、しかし、ウイット、ユーモア、エスプリに溢れる会話に、まるでベル・エポック時代のアメリカ人を見ているようでした。 別れるとき、彼女は朗らかに私に言いました。「また、来年NYにいらっしゃい。私が生きていたらまた会いましょう。次回はローアー・マンハッタンのメキシカンに行きましょうよ!メキシカンはカジュアルなものに限るわ!」

